弁護士 福田 浩
2015年11月26日(木)
出張
最近,東へ西へと,やけに出張が多い。
時間にまったく余裕のない中で出張するのであるから,相応の結果を出さなければならないというプレッシャーはあるものの,各地の名物料理が食べられるのは,自分へのご褒美的な楽しみである。もうひとつ。頭を空っぽにして,車窓や船窓から雄大な光景を眺めるのも,また楽しいひとときである。
先日は,広島港からスーパージェットに乗って,松山まで出張した。しばらくモバイルに向かっていたが気持ちが悪くなり,呉港あたりからはずっと,船窓からぼんやりと海を眺めていた。瀬戸内海とはいえ,音戸大橋を過ぎると大海原が広がり,そのスケール感に圧倒されてしまう。水平線に沈みゆく夕陽は,やがて大空を真っ赤に染めて,ひと輝きを最後に一日のフィナーレを演出する。こんなダイナミックな自然界の営みがあったなんて。
雄大な光景に触れると,日々の悩みなんて,粉雪のように吹き飛んでしまう。悩みがあろうがなかろうが,仕事がうまくいこうがいくまいが,お金があろうがなかろうが,そんな人間の社会生活などお構いなく,太古の昔から,陽は昇り,波は打ち寄せ,風は山の木々をざわめかせ,雲は雨を降らせ,川は海に注ぎ込み,海はいつも満面の水を湛え,陽はその果てに沈み込み,また昇る。やがては海辺の砂粒になっていく私の人生なのに,何を悩んでいるんだい,という声が聞こえてくる。
船速が落ちてきて,間もなく松山港に到着します,とのアナウンスとともに現実に引き戻される。さて,仕事に向かわなくてはいけないのだが,不思議なことに,心の荷物が軽くなっている。
弁護士 福田浩