弁護士 中岡 正薫
2015年04月27日(月)
まんじゅうこわい
暇をもてあました町人たちが、世の中の怖いものを言い合います。「クモ」「ヘビ」「アリ」などと言い合っていると、一人の男が「いい若い者が情けない。世の中に怖いものなどあるものか」と皆を馬鹿にします。怒った他の男が「本当に怖いものはないのか」と聞くと、うそぶいていた男はしぶしぶ「まんじゅう」と呟きます。男はその後、「まんじゅうの話をしているだけで気分が悪くなった」と言い出し、隣の部屋で寝る(ふりをします)。
残った男たちはイタズラ心を起こし、「あいつは気に食わないから、まんじゅう攻めにして脅してやろう」と、金を出し合い、まんじゅうをたくさん買いこんで、男の寝ている部屋へどんどん投げ込むのです。すると、男はひどく狼狽した(ふりをしながら)、「こんな怖いものは食べてしまって、なくしてしまおう」「うますぎて、怖い」などと言ってまんじゅうを全部食べてしまいます。
一部始終をのぞいて見ていた男たちは、男にだまされていたことに気付き、怒った男達が「お前が本当に怖いものは何だ!」と聞きます。
すると、男は言います。
「今は濃いお茶が1杯怖い」。
この話の主人公のすごいところは、行き当たりばったりで獲得目標(ここでは饅頭)を得たのではなく、怖いものを言い合っている時点から他の男の心理を計算して戦略的に饅頭を獲得したところにあります。
あえて挑戦的な発言を男達に投げかけて復讐心を煽り、別室に引きこもることで男達にイタズラの打合せの機会を与えて自分達の行動に正当性を与え、同時に饅頭が怖いという荒唐無稽な話をも妄信させているのです。
そして、最後の一言でしてやられた男達も脱帽せざるを得ません。
交渉術として学ぶところの多いお話です。