弁護士 大橋真人
2014年11月06日(木)
漢(おとこ)の世界
子どものころ、「漢」と書いて「おとこ」と読むという当て字が妙に格好良く思えて、何かに付けては使っていました。自分は「男」じゃない「漢」だ、という風に。そもそも、この当て字をどこで覚えたのか、今では全く思い出せませんが、なぜそう読むのかは分かっています、三国志です。
三国志は中国後漢末期の群雄割拠の時代から、三国(魏・呉・蜀)の成立、あるいはその後を描いています。現在では、映画やゲームなど色々な媒体のある三国志ですが、私が一番好きなのは、北方謙三先生の書いた「三国志」(全13巻)です。
この本は、どこをとっても傑作なのですが、中でも、北方先生が描き直した魅力溢れる登場人物達と格好良すぎる台詞には心が震えます。例えば、序盤、「治世の能臣、乱世の奸雄」と謳われた曹操孟徳と「人中の呂布、馬中の赤兎」と称された呂布奉先が雌雄を決する場面です。
曹操は呂布を完全に追い詰めますが、最後の最後に呂布に降伏して自分と共に来るよう懇願します。窮地にあった呂布にとって、曹操の誘いは生き延びる最後の手段です。しかし、呂布はこの誘いを一蹴し、曹操に対し、「男には守らなければならないものがある」と言い放ちます。堪らず曹操が「それはなんだ」と聞き返すと、呂布は「誇り」とだけ答え、自分にとって誇りとは「敗れざること」だと伝えるのです。この窮地にあって、このまま戦えば死ぬのは明白です。しかし、呂布は自ら「誇り」を捨てることだけはできなかったのです。そして呂布は、僅かな部下と共に大軍へと向かい、散ります。
どうですか!心が震えませんか!序盤で最高の盛り上がりを見せる場面です。私もいつか、大軍に追い詰められたらこの言葉を使うつもりでいます。北方三国志は、私に男と誇りを教えてくれたバイブルです。是非、皆さんも北方三国志で、群雄割拠の時代に誇りをもって生き、散っていく男たちの生き様と死に様を見て下さい。きっと心の琴線に触れる人がいるはずです。
そして、私はこの小説を読んだときから、漢という字を「おとこ」と読むのは、三国志の世界には魅力的な男たちの「漢」の世界が広がっているからなのだと確信しているのです。