弁護士 中岡 正薫
2014年02月12日(水)
猫の皿
弁護士の中岡です。
みなさんは「猫の皿」という落語の演目をご存じでしょうか。
あらすじはこうです。
江戸時代、とある古美術商が地方廻りをして骨董品の仕入れをしていたところ、休憩がてらに寄った茶店で300両は下らない高価な皿を発見する。ところが、店の主人がその皿を野良猫の餌用に使っていたことから、古美術商は主人が高価な皿であることを分かっていないものと考え、気づかれないように買い叩くことを企む。
そこで、主人に、野良猫が自分に懐いており是非とも譲ってもらいたい、と2両支払い、皿が違うと猫も餌を食わなくなるからと本命の皿を一緒に持ち帰ろうとする。
ところが、主人は、猫は構わないが皿は高価な絵高麗の皿であり譲ることはできない、と言う。
そこで、まさかの回答に驚いた古美術商が慌てて聞く。
「ほ、ほぅ・・・、そ、そんな高価な皿だとは全く知らなかった。しかし、なぜそのような名品で猫に餌をやっているのだ。」
主人が言う。
「はい、不思議なことがございまして、この皿で猫に餌をやっていますと、時々猫が2両で売れるのでございます。」
この話の面白さは、素人を言いくるめて高価な皿を買い叩いてやろうとしたプロが無知を演じてしまったために、逆に返り討ちに遭ってしまうというところにあります。
そして、最後の痛烈な皮肉を含んだ一言。
情報知識の非対称性が前提となるプロ対素人の関係において、非対称性が崩れた場合の悲劇(喜劇)がそこにあります。
しかし、もし、古美術商がその専門的知識をフルに活用していたらどうなっていたでしょう。
「この皿は高価な絵高麗の皿ですが、長期に渡り猫に餌を食わせていたせいで保管状況が極めて悪いですな。また、確かに貴重な皿ですが、絵高麗皿のブームもすっかり下火ですし、昨今の経済状況ではかつてのような高額取引は臨めないでしょう。そもそも、こんな場末の茶店に来てわざわざ皿を見つけて買い取りを希望する人もなかなかおらんでしょう。いいとこ30両ってとこですが、まあこれも何かの縁だ、50両で買い取らせてもらいましょう。」
もし、主人に皿が絵高麗の貴重な皿という情報知識しかなかった場合、もしかしたら、古美術商は大きな商いをすることができたのかもしれません。